ワークショップは、鳥居さんの自己紹介からスタートしました。2歳の時に網膜芽細胞腫を発症して全盲となった鳥居さんですが、「釣りに出かけたり、自転車に乗ったりと子どもの頃から好奇心旺盛で何事にもチャレンジし、幸い、それを両親も応援してくれた。負けず嫌いな性格だった。それらが今の活動的な生活につながっているのでは」と話します。
Santenは、眼科に特化したスペシャリティ・カンパニーとして、人々の「Happiness with Vision」の実現に貢献することを目指しています。
その一つとして、「視覚障がいの有無に関わらず交じり合い、いきいきと共生する社会の実現」を目標に、インクルージョン活動を推進しています。
2020年には、“見える”と“見えない”の壁を溶かし、社会を誰もが活躍できる舞台にする」という共通ビジョンを掲げ、Santenと日本ブラインドサッカー®︎協会(以下、JBFA)、インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーションは、長期パートナーシップ契約を締結しました。今回、同じくJBFAのパートナー企業であり、「食のダイバーシティプロジェクト」を推進する味の素社と共に、「障がいの有無に関わらず、いきいきと共生する社会」を考えるDE&I※交流ワークショップを、2024年3月7日に、味の素グループ うま味体験館で開催しました。
ブラインドサッカー男子日本代表強化指定選手で料理が得意なSanten社員の鳥居健人と、味の素社の社員の皆さんがブラインドサッカーと料理を通して交流。見えない世界を体感するブラインドサッカー体験の模様、鳥居さんならではの調理を楽しむ工夫など当日の様子をレポートします。
※DE&I・・・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン
ワークショップは、鳥居さんの自己紹介からスタートしました。2歳の時に網膜芽細胞腫を発症して全盲となった鳥居さんですが、「釣りに出かけたり、自転車に乗ったりと子どもの頃から好奇心旺盛で何事にもチャレンジし、幸い、それを両親も応援してくれた。負けず嫌いな性格だった。それらが今の活動的な生活につながっているのでは」と話します。
鳥居健人
参天製薬株式会社/ブラインドサッカー日本代表強化指定選手
※WORLD VISION: Santenが目指す理想の世界 https://www.santen.com/ja/about/philosophy
味の素社からは、広報や東京支社の若手有志社員が参加しました。生まれつき聴覚障がいがあるというグローバルコミュニケーション部の尾城さんは、「自分を知ってもらうことで、お互いに気持ちよく仕事ができる関係づくりをモットーにしてきました。日常はすべて視覚に頼り、皆さんがテレビの音声をミュートにしたような世界にいます。耳が聞こえない、目が見えない、とはどういうことなのか、肌で感じるめったにない機会なので、何でも聞いてください」と、音声読み上げ機能を用いて自己紹介をしました。
音声読み上げ機能を用いて自己紹介する味の素社の尾城さん
まずはウォーミングアップとして2人1組でのジェスチャーゲームを行い、言葉だけで伝える難しさや、普段いかに視覚情報に頼っているかを体感した後、さっそくブラインドサッカーの体験開始です。
ブラインドサッカー体験では、音の鳴る専用のボールを使って、5人2組のチームに分かれてシュートの得点を競いました。アイマスクを着用してシュートをするメンバー1名に対し、アイマスクをしていない残り4名のチームメンバーがボールの位置や蹴る角度を言葉で伝えます。視界を失うと、まっすぐ歩くのも不安になるので、頼りになるのは仲間の声です。「見える」「見えない」の立場を交互に繰り返し体験することで、次第に相手の気持ちに寄り添いながら「あと3歩!」「あと5cm右!」などと、具体的な指示が増え、コミュニケーションの精度が向上していく様子がうかがえました。
普段から言葉を大切にしているという鳥居さんは、「声にも表情がある」と語ります。同じ言葉でも、声の抑揚や伝え方によって印象が異なるため、「ぜひ視覚以外の感覚にも意識を向け、相手を思いやって、自分なりの“表現の工夫”を楽しんでください」と笑顔で話しました。
味の素社は、創業以来培ってきた「食」と「アミノ酸」の知見に基づき、さまざまなアスリートの活動を支援しています。2023年に社内有志で立ち上げたという「食のダイバーシティプロジェクト」は、さまざまな人々が自然に混ざり合う社会を目指すという志のもと、パラアスリートやスポーツ愛好家の食への向き合い方、食の価値について体験的に学び、発信しながら仲間同士がつながっていくDE&Iの推進活動です。
回鍋肉と卵スープを調理する鳥居さん
パラアスリートでもある鳥居さんにとって料理はリフレッシュであり、かつ食事の栄養バランスは重要です。普段から味の素社の製品を愛用して色々なメニューを試している中、この日は、 「Cook Do®︎」を使った「回鍋肉」と「丸鶏がらスープ™」を使った「卵スープ」の調理を披露しました。鳥居さんが料理を始めたのは、中学生の時。当時5歳だった妹に「美味しくて栄養のあるご飯を作ってあげたい」という想いがきっかけでした。料理の魅力は、「工夫が無限に楽しめること」。見えない世界でもスムーズかつ安全に作業をするために、食材や調味料、調理器具、包丁の刃の向きまで、置く場所を必ず徹底します。特に手の感触が頼りだと言い、ニンジンの皮がむけているか手で丁寧に触って確認し、顆粒だしは指に沿わせて量を量ります。鍋やフライパンの温度、具材の火の通り具合も手で直接触って確認しながら炒めます。
スープに入れる溶き卵は、出来具合を目で確かめられない分、ふわふわの食感になるようにザルで濾しながら入れるなど、独自の工夫や、丁寧に過程を楽しむ様子が随所に見られました。鳥居さんは、「決してすごいことをしているわけじゃなく、自分にとって“普通”のことは人それぞれ違う。そこに歩み寄っていくと、お互いにとって良い刺激になるのでは」と話しました
スマートフォンの音声機能を使って、鳥居さんとコミュニケーションをとる尾城さん
尾城さんは、鳥居さんの手際の良い調理に驚きながら、熱心に質問。「料理をする上で困ることは何ですか」と尾城さんが音声アプリを利用して聞くと、「揚げ物が苦手です。熱くて触れられないから」と、鳥居さんは苦笑い。また、他の味の素社の社員から自社製品に対する視覚的な要望を問われると、「例えば、パッケージの上下が触って分かりやすかったり、パッケージ上に詳しい商品情報にアクセスできるリンクなどの工夫があるとうれしいです。それをスマートフォンで読み取ることで、商品名やレシピ、アレンジメニューなどが把握できるのは便利」と、視覚障がい者ならではの視点で発言するなど、終始和やかに交流しました。
試食の後、最後に参加者全員で今回のワークショップを振り返り、参加した味の素社社員から気づきの声が寄せられました。
・視覚障がいのある人に声をかけるのは緊張するものですが、ブラサカ体験を通してかけられた具体的な言葉がうれしく、有り難いものだと分かった。
「あっち、こっち」ではなく、「時計の4時の方向」など、具体的な表現が参考になった(レシピ開発、女性) ・目が見えているとレシピをそのまま信じてしまうけど、自分の舌や五感で作る大切さを教わった。いろんなシーンで料理をする人のことを考えて、今後の業務に活かしたい(レシピ開発、女性) ・相手のことを考えて仕事をしているつもりだったけど、より多様性を意識して丁寧に接したいと思った。障がいの有無に関係なく、美味しさや好きなもの、こだわりを追求して楽しむのは大事だと思った(営業、男性)
参加者の感想に笑顔でうなずきながら、鳥居さんと尾城さんは次のように話します。
「知らないことに距離を置くのは当たり前のことです。見えない人の生活や行動は、関わらなければ分からないし、分からないから壁を作ってしまう。だからこそ、知る機会が重要です。私たちは理解してほしいというよりも、知ってほしい。今後もこうした機会を増やして発信していけたらうれしいです(鳥居)」
「できないことに対して工夫をすることは、普遍で大切なことだと感じます。今日初めて鳥居選手と会った時に、指文字であいさつしてくれて感激しました。お互いを知ることは、とても大事です。相手を見て、気づいて、知ることで、自然と思いやりや協力関係が生まれるものだと思います(尾城)」
交流会を終え、ワークショップを主催したSantenと味の素社の担当者はDE&Iの展望について、次のように話します。
「日本では盲学校、ろう学校などに分かれるため、障がいのある方がどう生活をしているのか、どこに困っているのかなどを知る機会が遮断されてしまいます。職場や今回のような機会で相手を知り、互いに思いやりながら工夫しながら生きていく。そんな社会になれば心地よいのではないでしょうか。インクルージョンは決して一人や一社の力では実現できません。今回のようにパートナー企業と、それぞれの強みを掛け合わせて、新しいアングルで共感の輪を一歩ずつ広げていければと思います(Santen担当者)」
「誰しもそれぞれ得意や不得意があり、その垣根を越えて助け合えば美味しいご飯が作れる。食に関わっている会社の意義がそこにあるのではと思います。私たちがパラアスリートをサポートしている理由は、彼らのポジティブな姿勢に共感し、食が栄養的な効果を超えて、心の安らぎやチームワークを生み出す力を信じているからです。多様な個性をポジティブに捉え、食を楽しむ環境づくりをサポートしていきたいと思います(味の素社担当者)」
味の素グループの記事はこちらからお読みいただけます。
https://story.ajinomoto.co.jp/report/136.html