毎年3月上旬の1週間、世界同時に行われている「世界緑内障週間(World Glaucoma Week、以下WGW)をご存じでしょうか。緑内障啓発のための国際的イベントで、2023年は3月12日~18日に開催されます。地域のモニュメントが緑内障のシンボルカラーのグリーンにライトアップされているのを見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。

緑内障は、世界でおよそ7,600万人が罹患し、2030年までに9,500万人に増加すると予測されています*1。多くの国や地域で失明原因の上位となっており、自覚症状が少なく、気がついた時には症状が進行してしまっているケースが多いため、緑内障による失明を減らすためには、早期の発見と治療がとても重要です。

*1
World report on vision. Geneva: World Health Organization; 2019. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO

緑内障の患者さんのQOL向上に寄与するために

緑内障は、目から入ってきた情報を脳に伝達する視神経に障害が起こり、視野(見える範囲)が狭くなる病気です。片方の目の視野が欠けても、もう片方の目で見えない部分を補うため、緑内障の初期は自覚症状がほとんどありません。そのため、気がついたときには状態が悪化しているということも少なくありません。

視野が狭くなると、仕事や趣味などに支障をきたし、Quality of Life(生活の質:QOL)の低下につながります。また緑内障になると、正常な人に比べて転倒を約4倍、自動車事故を約7倍起こしやすかったという報告があります*2

Santenは人々の目の健康に向き合う眼科専業企業として、また「Happiness with Vision」の実現のため、GWGの期間中、「緑内障は身近な病気であること」「必ずしもすぐに失明するわけではなく、治療すれば長期にわたって視力を維持できること」「早期発見・早期治療が何よりも大事であること」――の認知向上を図るとともに、早期発見に向けた定期的な眼科検診の大切さなど、積極的に発信をしていきます。

*2
Haymes SA, et al. Risk of falls and motor vehicle collisions in glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci 2007;48:1149-55.

緑内障を取り巻く各地域の状況とSantenの取り組み

緑内障疾患の患者さんが直面する課題は、医療環境や患者さんの生活環境によって異なります。各国・地域の緑内障治療の現状や課題を見てみましょう。
注: 各国の患者数や診断率は、各国の基準やデータに基づいた情報を参考に記載しています。同一条件下でのデータではありません。

<日本:中途失明原因1位、早期発見と治療継続の後押しがカギ>

 

日本において、緑内障は中途失明原因1位の疾患です*3。2000~2002年に行われた詳細な緑内障疫学調査(多治見スタディ)では、国内の緑内障推定患者数は 465万人(2016年の人口統計をもとに計算)と言われ、さらに、同調査において、緑内障の新規発見率は 89%であったことから、多くが未治療の状態といわれています。

緑内障と診断されてから2カ月間は月に1度、3カ月目以降は2~3カ月に1度程度のペースで通院する必要があり、患者さんに、いかに継続的な治療に取り組んでいただけるかが課題となっています。治療を中断してしまう患者さんも多く、日本では、治療開始から1年後には約4割の患者さんが治療をやめてしまったという調査結果も出ています*4

SantenではSNSなども活用して、疾患・治療に対する正しい認知や、早期発見に向けて潜在患者さんの眼科受診を促すとともに、患者さんの治療継続率を高めることを目的に、医療従事者向けのコミュニケーションツールの提供にも力を入れています。

今年のWGWに合わせ、日本各地のSantenオフィスを緑内障のシンボルカラーであるグリーンにライトアップして盛り上げ、活動への支援を表します。また、幅広い年齢層に緑内障を啓発することを目的に、緑内障啓発を目的に制作した漫画も活用します。

*3 厚生労働科学研究 研究費補助金難治性疾患克服研究事業網脈絡膜萎縮・視神経委縮に関する研究
*4 柏木賢治:臨床眼科69(11)270-273、2015(Kashiwagi K et al.: Jpn J Ophthalmol, 58: 68-74. 2014)

<中国:治療の標準化と高額な治療費への対応が課題>

 

中国における、主な緑内障の一つである原発開放隅角緑内障の患者数は600万人以上といわれています。しかし、医師にかかった約100万人の患者のうち、正しく緑内障と診断される割合は約70%にすぎません*5。中国国内には緑内障専門医が約500人しかおらず、専門医の数や設備が十分ではないためです。

緑内障の平均的な治療費は、年間およそ2,500元(約4万8,700円*6)で、2021年の平均日収に占める治療費の割合は、都市部で12.32%、農村部では30.85%となり*7、患者さんの経済的負担が大きいことが問題となっています。

The ophthalmologist is examining the eyes of the patient

Santenでは、「緑内障COE(Center of Excellence=卓越した研究拠点)プロジェクト」を通して、中国における緑内障治療の標準化、オンラインとオフラインでそれぞれ行われている学術活動の統合、典型的な症例の共有を推進します。研究者間のコミュニケーション向上などを支援することを目的に、主要都市部に「緑内障COEセンター」を設立する計画もあります。

*5
Chin J Ophthalmol, August 2019, Vol.55, No.8
*6 1人民元=19.5円、単剤点眼治療で、2回の通院と経過観察を含めた場合
*7 Chin J Ophthalmol, November 2022, Vol.58, No.11

<アジア:診断率の向上と専門医の育成を支援>

 

アジアでは2020年時点で、最大6,500万人が緑内障に罹患していると推定されています*8。発見が遅れたために、診断されるまでに視力低下をきたす患者さんが多く、4.1%が片目失明、56%が少なくとも片目に著しい視野障害を有しています*9。しかし、アジア諸国の多くでは緑内障の診断率が低く、重症化するまで緑内障に罹患していることに気づかない患者さんも少なくありません。アジアにおける緑内障の負担を軽減するためには、疾患の認知度向上、早期発見、効果的な治療を受けられる環境整備が求められています。

Santenは、有識者や医学学会などと連携し、医療従事者の緑内障に関する知識・スキル向上のための支援に力を入れています。また、緑内障専門医の少ないフィリピン、ベトナム、インドの3カ国を対象に、緑内障診断・治療技術の向上に向けた地域社会と連携したプロジェクトや、疾患と治療への理解を深めてもらうための緑内障患者さん向けアプリの提供も行っています。

A little girl sits on her Mothers lap on the examination table, while on a visit to the doctor. Her mother is wearing a head scarf and both are casually dressed. The little girl is holding a white teddy bear with a yellow ribbon and looking up at her East Indian female doctor. The doctor has her back to the camera as the mother explains her daughters symptoms.

WGWの期間中、アジア各地では、緑内障に関するポスターや動画などを活用し、患者さんの治療継続に役立つような教材やアプリの啓発を行っていきます。

*8
Tham YC, Li X, Wong TY, Quigley HA, Aung T, Cheng CY. Global prevalence of glaucoma and projections of glaucoma burden through 2040: a systematic review and meta-analysis. Ophthalmology. 2014 Nov;121(11):2081-90.
*9 ChuaJ, BaskaranM, OngPG, et al. Prevalence, risk factors, and visual features of undiagnosed glaucoma: the Singapore epidemiology of eye diseases study. JAMA Ophthalmol.2015;133(8):938-946.

<米国:増加が予測される患者数と、高額な薬剤費>

 

米国では、40歳以上の270万人以上が緑内障に罹患しています。人口の高齢化が急速に進んでいるため、患者数は2032年には約430万人、2050年には約550万人に増加すると予測されています*10

米国における緑内障関連の経済的負担は29億米ドル(約3,836億円*11)で、国内の視神経障害の治療と管理に費やされる58億米ドル(約7,675億円*11)の大部分を占めています。緑内障に関する経済的負担は、病気の重症度が上がるにつれて増加するため、経済的な面からしても、早期発見・早期治療がとても重要です。

WGWの期間中、SNSを活用して患者さんに対する啓発を行い、早期発見・治療の促進を図ります。

*10
Prevention CfDCa. Vision loss: a public health problem. 2022
*11 1米ドル=132円

A mature man caregiver with stethoscope and old patient looking out through window.

<欧州:進行度で異なる治療費、求められる継続治療の環境づくり>

 

欧州では、2040年には約785万人が緑内障に罹患すると推測されています*12。緑内障の治療費は進行度によって異なり、ステージ0(早期)では年間455ユーロ(約6万4,700円*13)、ステージ4(重度)では969ユーロ(約13万7,800円*13)で、そのうちの42~56%が薬剤治療費だったという報告があります*14。治療の過程では、患者さんの考え方や経験に基づく意向を考慮したうえで、患者さんが治療方針に同意し、積極的に継続治療に取り組むことができる環境づくりが求められています。

Santenは、医師や患者さんのニーズに応えるため、各ステージに応じた包括的な緑内障治療薬の提供を行いながら、新しいソリューションの提供にも取り組んでいます。

*12
Tham Y-C et al. Ophthalmology. 2014;121(11):2081-2090
*13 1ユーロ=142円
*14 2005, Traverso et al.

A doctor performing an eye examination in a hospital.

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