眼科医療を効率的に発展させる上で欠かせないのが、デジタルテクノロジーの活用です。すべての患者さんが適切な医療を最適なタイミングで受けることができる世界の実現や、眼科医療のエコシステムの発展においても、また私たちSantenの活動をさらに進化させていくという点においても重要となるデジタルテクノロジーについて、可能性を探っていきます。

ヘルスケア業界における変化 —薬だけでなく経験による価値提供へ—

これまで医療業界において製品やサービスの価値は「治療の効果」から判断されていました。しかし現在は、利用者がどのような経験をし、どのような価値を感じたのか、つまり製品やサービスを通じて提供する「経験の質」で評価されるようになってきています。眼科医療でいえば、目の症状が改善することに加え、いかに患者さんの生活に寄り添い、ニーズに応えられるかが重要です。

このような背景のもと、予防、診断、治療といった各段階において、多くのヘルスケア関連企業が従来の「薬剤による治療」という枠を超えて製品やサービスを提供する取り組みを始めています。様々なIT企業の参入も相次ぎ、今やデジタルテクノロジーは、電子カルテやOCT*1をはじめ、ペースメーカーを移植した患者さんの遠隔モニタリング、糖尿病管理のソフトウェアなどから、スマートフォンやモバイルアプリを活用した健康増進サービスまで、幅広く活用されるようになっています。そのようななか、製薬各社も、AI技術を持つIT企業をはじめ、遺伝子解析技術を持つ企業、エンターテイメントのコンテンツを提供する企業など、製薬以外の業界と提携し、最新技術を生かした新たな価値創造に乗り出しています。

デジタル技術の活用がエコシステム発展を加速させる

眼科領域においても、患者さんに適切な医療を最適なタイミングで提供するにあたって、デジタル技術は大いに役立ちます。たとえば、眼科医療に関する情報が身近になく、眼の健康に対する意識が低い患者さんが多い地域・国においては、デジタルメディアを通じた疾患情報の提供により、患者さんの意識喚起、疾患啓発を行うことが有効かもしれません。また、眼の健康への不安があっても、医療機関が遠い、多額の費用がかかるなどの理由から眼科医療へのアクセスが難しい場合、遠隔医療のオンラインサービスが解決策となりえるでしょう。その他、待ち時間を短縮・管理するためのオンライン予約システムや、治療継続をサポートするアプリケーション、白内障などの手術時の医療機器によるガイダンスなども、デジタル技術を活用した一例です。

デジタル技術は、エコシステムの発展にもつながります。眼科医療のエコシステムが発展途上にある社会では、眼科医療に関する情報の不足、医療機関や医療従事者の不足、診断や治療の質が低いなどの理由で、人々に対して眼科医療の価値を十分に届けることができません。これらの状況を解消するには、従来は、ソフト・ハード面における医療インフラを整備するために非常に長い時間と、大きな投資が必要でした。具体的には、行政や医療機関などあらゆるステークホルダーが眼科医療の重要性を理解し、病気の治療を啓発するとともに、その地域に病院やクリニックを設立し、医療人材を派遣・養成するなどです。

しかし、デジタル技術を活用すれば、こうしたインフラ構築を代替したり、患者さんと医療を直接結びつけたりすることが可能となり、より効率的に、スピーディーにエコシステムを発展させることができるでしょう。例えば、遠隔操作で最新の医療技術が世界中で共有できれば、僻地の医師のスキルアップを加速させることができるかもしれません。また、医療機関や検診センター、薬局など患者さんを取り巻くさまざまな機関をネットワークでつないで医療データを共有することができれば、診断・治療の質や生産性が飛躍的に向上する可能性も考えられます。

デジタル技術でSantenの活動も変わる

デジタル技術活用に向けた取り組みは、Santenでも始まっています。2020年1月、国際電気通信連合(ITU)とパートナーシップを締結し、ITUとWHOとのデジタルヘルスの取り組みであるBe He@lthy,Be Mobileをサポートすることを決定しました。また9月にはGoogleを傘下に持つAlphabetの子会社で、ライフサイエンス関連の事業を手掛けるVerily Life Sciences LLCと合弁会社を設立しました。このようにデジタル技術の分野で高い専門性を持つこうしたパートナーと、Santenの持つ眼科領域における専門性を掛け合わせることで、患者さんのQOL*2向上に資する新しいソリューションの創造を目指していきます。

デジタル技術は私たちの活動を飛躍的に発展させることはもちろん、眼科医療の進化を支える重要な役割を担っています。私たちSantenは、デジタルテクノロジーを活用しながら、患者さんの良質な体験価値をつくり、眼科医療の未来に貢献していきます。

*1: Optical Coherence Tomography(光干渉断層撮影)
*2: Quality of Lifeの略で、生活の質