WHOのレポートによると、世界で少なくともおよそ22億人が失明または視力障がいの状態で暮らしていると推定されており、そのうち約18億人は老視(老眼)です。眼鏡やコンタクトレンズで視力を矯正している人の多くはこの数に含まれないため、実際に目の不具合に悩まされている人の数を正確に推定することは困難と考えられています。老視や近視をはじめ、ドライアイやアイストレスなどの目の状態は、人々の生活や社会全体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。今回は、疾患として認識されにくい目の不具合についてご紹介します。
高齢化の進展やデジタルデバイスの普及、仕事や生活スタイルの変化によって、私たちの「見る」環境は大きく変化しました。目を休めたり、睡眠をとったりするなどの眼の休息時間が増加しているとは言えず、感覚器の中でもとくに視覚を酷使するようになり、眼を取り巻く環境は過酷になっています。
目の不具合は人々のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)に影響を与えるにも関わらず、疾患としての認識が低く、適切なケアや予防にいたらない傾向が高いのが現状です。大きな課題のひとつとして、眼に対する正しい知識が不足していることが挙げられます。
老視は、目の不具合の中でも代表的なものであり、加齢とともに水晶体が弾力性を失うことと、水晶体の厚みを調節する毛様体筋が衰えることにより、近くが見えづらくなる疾患です。今後、世界的な人口の増加、そして高齢化にともない、老視の人口はさらに増加することが予想されます。
調節力自体は10代から徐々に低下していきますが、30代頃までは生活上の不便は生じず、40代頃、手元に焦点を合わせることができなくなって初めて老視を自覚すると考えられています。70代頃には、老眼鏡なしでは手元が全く見えなくなります。老視は身近なものであり、いずれ自分もなるのだと多くの人が理解していますが、実際にどのような不具合があり、生活にどう影響するのかについては、症状が進行するまではなかなか自分ごととしてイメージしにくいという課題があります。また、症状が現れたとしても「歳だから仕方ない」「不便だけど眼鏡を持ち歩くしかない」と不具合を感じながら生活を送るケースが多いのも現状です。
近年では10~30代においても、スマートフォンなどITツールの長時間利用が原因で、眼のピントを合わせる機能が低下して老視のような症状があらわれる場合があります。視機能を少しでも長く維持するために、なるべく早期から自分事として捉え、アイケアへの意識を高めることが大切です。
近視は現在世界中で急激に増加しており、2050年までには世界人口の半分にあたる約50億人が近視になると予測されています。近視の増加は、ライフスタイルの変化により屋外で過ごす時間が減少していることなどが影響していると考えられています。中国など、近視を重要な社会問題と位置付けて政府が近視対策を始めている国もあります。
近視は、眼球が前後の水平方向に異常に伸びていくこと等で起こります。この場合、強膜や網膜は引っ張られて弱くなり、視神経にも負荷がかかることがあります。したがって、近視が強くなればなるほど、緑内障などの疾患につながるリスクが高まります。また、近視が原因で直接失明を起こす病的近視もあります。近視は、人々のQOL(Quality of Life:生活の質)向上を図るためにも、将来のさらなる目の不具合を予防するためにも、見逃すことができない疾患のひとつです。
環境や眼の使い方によるストレスが要因となり、眼乾燥感、眼疲労感、眼異物感、結膜充血など様々な症状が目に起こることがあります。こうした症状を放置すると、ドライアイや眼精疲労などの疾患につながる場合もあります。また、パソコンやスマートフォンなどのディスプレイを長時間見続けることは眼のピント調節機能のみならず、眼の疲れや痛み、乾き、かすみ、めまいなどのほか、肩や首などのコリや痛み、イライラなど心身に影響を及ぼすこともあります。しかし、こうした症状を感じても、体質・環境のせいだから対処しない、対処したとしても一時的な対処でやり過ごす人が多く、今後人々が目を酷使する環境は変わらないか、ますます過酷になることが予想されます。
眼の不具合が社会に及ぼす影響は、個人のQOL低下だけに留まりません。
眼疾患の中でも世界で最も患者数が多いとされる近視は、2030年には33.6億人に増加するといわれています。世界的に増加する視力障がいは、年間およそ4,107億ドルもの経済損失をもたらすといわれています。目の健康に対する取り組みは、教育や労働力の向上にもつながり、持続可能な社会の実現においても極めて重要な社会課題です。
「見る」ということの重要性が増している現代において、適切に視機能を維持することは、快適な生活はもちろんのこと、自己実現にも大きく影響します。目の不具合に悩む人を一人でも減らすため、眼科領域を専門とする私たちSantenの挑戦は今後も続きます。