近視の進行抑制治療を目的とする点眼剤 STN1012700 / DE-127(アトロピン硫酸塩水和物点眼液)の日本における製造販売承認を申請

参天製薬株式会社(本社:大阪市、以下Santen)は、近視の進行抑制を目的としたSTN1012700 / DE-127(一般名:アトロピン硫酸塩水和物点眼液)(以下DE-127)について、2024年2月28日付で国内における製造販売承認の申請を行いましたのでお知らせします。

DE-127は、近視進行抑制を目的として、Santenとシンガポールの国立眼科・視覚研究所であるシンガポールアイリサーチインスティテュート(以下 SERI)が共同開発している点眼剤で、アトロピン硫酸塩水和物を0.025%含有しています。アトロピンは、ムスカリン受容体の可逆的拮抗薬で、ムスカリン受容体の活性化を阻害することにより、網膜又は強膜に直接的もしくは間接的に作用し、強膜の菲薄化又は伸長を阻害することで、眼軸の伸長を抑制する1と考えられています。近視とは眼軸長が長くなって、目の中に入った光線のピントが合う位置が網膜より前にある状態です。眼軸の伸長を抑制することは、近視の進行を抑制もしくは遅延させることにつながると考えられ、近視患者さんのQuality of Life (生活の質:QOL)の低下や、近視に関連した視力障害を伴う重度の眼の合併症の予防に貢献するものと期待されています。

DE-127の有効性については、国内で近視の小児を対象に行われた第Ⅱ/Ⅲ相プラセボ対照二重遮蔽比較試験において、投与24ヵ月後における投与前からの他覚的等価球面度数の変化量について、DE-127はプラセボ点眼液と比較して、調節麻痺下での進行抑制効果が認められ、優越性が示されました。また、投与24ヵ月後における投与前からの眼軸長の変化量について、DE-127は、プラセボ点眼液と比較して有意な差がみられ、眼軸長の伸長抑制効果が認められました。なお、この有効性は3年間にわたり持続することが示されました。また、本試験において重篤な副作用は認められませんでした。

進行性で不可逆的な疾患である近視は、患者数が 2030年には世界人口の39.9%、2050年には49.8%に達する2と予想されています。日本においては、文部科学省が実施した学校保健統計調査で、裸眼視力1.0未満の者の割合は年々増加しており、2022年度調査では小学校で37.88%、中学校で61.23%、高等学校で71.56%という結果が示されています3。近年の近視の増加は、特に屋外活動時間の減少と、子供たちの読書、勉強、デジタル機器の使用など近業作業(近くを長時間見る作業のこと)活動の増加が組み合わさったことによるライフスタイルの変化に起因すると考えられています2,4。近視が進行すると、将来、強度近視により視力障害を伴う失明に至る可能性のある重度の合併症の発症リスクが増加すると報告されています4。近視人口が急増するなか、患者さんのQOLの維持向上や強度近視やその合併症リスクを下げるために、特に近視発症および進行時期にあたる学童期における近視進行抑制治療の選択肢の拡大が求められると考え、Santenと SERI は、日本初の近視進行抑制を効能・効果とする承認薬の実現を目指し、DE-127の開発を進めてきました。

日本近視学会理事長で東京医科歯科大学眼科学教室教授、今回の治験医師である大野京子先生は、「長きにわたり進めてきたこのアトロピン新製剤が申請という重要なマイルストーンを迎えたことを大変嬉しく思います。たかが近視と思いがちですが、病的近視にまで進めば失明に至ることもあります。重い近視が進むことによる失明は、現在においては治療が難しく、経過を見るしかありません。眼軸長は身長が伸びる時期に伸びやすく、近視が進行しますので、この時期の治療が重要になります。増え続ける近視患者さんの健全な社会生活を守るため、日本において、近視の進行抑制にアプローチする新たな治療提案をできる可能性に大いに期待をしています」とコメントしています。

Santenのチーフ メディカル オフィサーであるピーター・サルスティグは、次のように述べています。「近視はスポーツや就労といった重要な社会生活に影響を及ぼすだけでなく、多くの場合、小児の早い時期から発症するため、進行すると、近視の長期的な合併症を含め、成人期まで患者さんの生活に支障をきたす可能性があります。人々の目の健康を追求するSantenとして、このDE-127の開発が、急増する近視患者さんのニーズに応える新たな治療方法の提供へとつながることを期待しています」。

Santenは、世界の人々が「見る」を通じた幸せを実感できる社会の実現に向け、様々な外部機関とのコラボレーションやオープンイノベーションを積極的に行っています。Santenと SERI は、特にアジア地域で頻発する眼科疾患に対する新たな治療薬の開発を目的とし、眼科領域の研究・開発における両者の強みを活用する複数年度の戦略的共同研究を、2014 年 11 月に立ち上げました。引き続き、互いの高い専門性を生かし、患者さんの治療に貢献できる新製品の創出を目指し、一人でも多くの患者さんの QOL向上に貢献してまいります。 

近視について
目に入ってきた光線は、角膜と水晶体を通り、屈折して網膜に像が写し出されます。近視とは、無調節状態で目に入った光線が網膜より前で像を結ぶ状態を指し、眼球が前後方向に延びることが主な原因と考えられています。近視の程度は等価球面度数(単位:ジオプトリー(D))で表され、International Myopia Instituteによる分類では、-0.5D以下を近視、-6.0D以下を強度近視と定義されています。強度近視の患者さんは、失明に至る合併症のリスクが高いことが報告されています4。近視は一般的に眼鏡やコンタクトレンズ等で矯正されます。また、海外では、近視の進行を抑えるための点眼液、コンタクトレンズ、オルソケラトロジーなどの使用が近視の進行抑制治療として検討され、これら治療は認可承認を受けつつあります5が、日本においては2024年1月時点で、どの治療方法も認可承認を受けていません。

<参考文献>

  1. Upadhyay A, Beuerman RW. Biological Mechanisms of Atropine Control of Myopia. Eye & contact lens 2020 May;46(3):129-135.
  2. Holden BA, Fricke TR, Wilson DA, Jong M, Naidoo KS, Sankaridurg P, et al. Global prevalence of myopia and high myopia and temporal trends from 2000 through 2050. Ophthalmology 2016;123(5):1036-42.
  3. 文部科学省: 報道発表 令和4年度学校保健統計(確定値)の公表について. https://www.mext.go.jp/content/20231115-mxt_chousa01-000031879_1a.pdf
  4. Morgan IG, Ohno-Matsui K, Saw SM. Myopia. Lancet 2012;379(9827):1739-48.
  5. 日本近視学会: 近視の進行抑制治療. https://www.myopiasociety.jp/general/care/flow.html

シンガポールアイリサーチインスティテュートについて
1997年に設立されたシンガポールアイリサーチインスティテュート(SERI)は、眼科領域および視力研究を目的としたシンガポールの国立研究所です。SERIのミッションは、失明や弱視、シンガポール人とアジア人に共通する主な眼病を予防する影響力の大きい眼科研究を実施することです。過去10年間、SERIは画期的な研究プロジェクトを実施し、具体的な成果と患者さんへのベネフィット、成功例を生み出し、シンガポール人やアジア人のみならず、世界規模で眼疾患の治療と予防の方法を大幅に改善する道を切り開いてきました。
設立当初、SERIは、眼科および視覚研究において国家的な使命を担っており、シンガポールにおいては比較的規模が小さい臨床眼科領域から多くのベネフィットが得られるよう、今日に至るまで、その施設と資源をシンガポールの研究者に開放しています。SERI は 1997年に設立された5 名からなる創立チームから、臨床医科学者、基礎研究者、リサーチフェロー、博士課程の学生、サポートスタッフを含む251人以上の大きな組織に成長しました。SERI はシンガポールで最大の研究機関の一つであり、アジア太平洋地域で最大の眼科研究機関です。また、SERIは、シンガポールの様々な眼科研究所、生物医学研究所、および関連医療センターにおいて 250人以上の非常勤教員を有しています。

SERIはこれまでに印象的な5,235本の科学論文を発表し、外部からの査読による助成金を獲得しています。2023年9月現在、SERI の教員は 1,158 以上の国内外の賞を受賞しており、159の特許を出願しています。シンガポール国立眼科センター(SNEC)の研究機関として、またシンガポール国立大学Yong Loo Lin医学部およびデューク-NUS医科大学院の直属機関として、SERIはローカルの臨床眼科センターや生物医学研究機関、ならびに世界中の主要な眼科センターおよび研究機関と協力して視覚研究に取り組んでいます。SERIは、国民一人当たりの眼科論文発表数において、米国、英国、日本を大きく引き離し、世界第1位にランクされており、それらの実績により、SERIは地域的にも国際的にも著名な眼科研究機関と肩を並べる存在となっています。www.seri.com.sgをご参照ください。

Santenについて
Santenは、眼科領域に特化したスペシャリティ・カンパニーとして、世界中の患者さんや生活者、医療関係者の皆さまへの価値ある製品やサービスの提供を通じ、人々の「Happiness with Vision」の実現に貢献することを目指しています。創業以来、「天機に参与する」という基本理念の下、130年以上にわたり人々の目の健康維持・増進を追求してきました。現在、眼科領域における医薬品の研究開発、製造、販売・マーケティング活動をグローバルに展開し、世界60以上の国・地域で約5,000万人の人々の目の健康をサポートしています。私たちのミッションは、眼科領域における専門性と患者さん視点から創出される製品やサービスを通じて、目の病気の予防や診断、治療において今まで提供されていない重要な価値を患者さんや社会に提供し続けることです。一人でも多くの患者さんが幸せで豊かな人生を過ごすことができる未来を創り出すため、世界中の人々が「見る」を通じた幸せを実感できる社会の実現に向けて全力を尽くしています。
詳細については、当社ホームページhttps://www.santen.com/jaをご参照ください。

-本件に関するお問い合わせ先-
参天製薬株式会社 コーポレート コミュニケーション
Email: communication@santen.com